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2018.07.23

『ツール・ド・フランス』はフランス人にとっての夏の甲子園だ

残り日程もあとわずかとなった『ツール・ド・フランス』。フランスを一周するこの世界最大の自転車レースは、フランス人にとって夏を感じさせる大切なスポーツイベントでもあるようだ。前回に続き、『ツール・ド・フランス』に追従取材を続ける筆者が解説する。

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文/寺尾真紀 写真/辻 啓

7月のフランスで3週間にわたって開催される「ツール・ド・フランス」は、トップチームだけが出場を許される最高峰の自転車レースというだけでなく、観客動員数ではサッカーW杯、夏季五輪を上回る、世界最大のスポーツイベントでもある。
ツール・ド・フランス
フランス語で「一周」を意味する「ツール」の名前の通り(ツール・ド・フランス=『フランス一周レース』)、このレースは毎年ルートを変えながら、フランスの広大な国土をぐるりと巡っていく。ときには少し足をのばして、フランス以外の国を走ることもある。毎日1ステージずつ21日間、古く中世まで歴史をさかのぼる美しい街並みや、どこまでも続く広大な田園地帯や、アルプスやピレネーの壮大な山々を走り抜けながら、最終目的地であるパリ・シャンゼリゼ大通りを目指して進んでいくのだ。
ツール・ド・フランス
190か国で放映され、35億人が視聴すると言われる(諸説あるがこの数字が欧州の新聞では頻繁に引用される)国際的スポーツイベントではあるけれども、フランス人にとっては、自転車に興味があろうとなかろうと、毎年7月にかならずめぐってくる夏の風物詩、という意味合いが大きい。子供のころ自分の村にツールが来てその数日間はお祭り騒ぎだった、とか、家族とのキャンプ旅行中に近くをツールが通り沿道で選手たちを見送った、など、いつか、どこかで実際にツールを見たという経験をもつフランス人も少なくない。
もうひとつ忘れてならないのは、実際ツールを観戦したことはなくても、3週間にわたってテレビで流れ続けるツールの風景や音が、その時に身の回りで起きていたさまざまな出来事の背景となって、フランスの人々の夏の思い出と密接につながっている、ということだ。

色とりどりのジャージーに身を包んだ選手たちの姿。ヘリコプターの空撮から見えるよう、『Vive le Tour!(ヴィーヴ・ル・トゥール!=『ツールよ永遠に!』の意)』の大きな文字が飾られた農場。沿道の観客から選手たちへの「アレ、アレ、アレ!(行け、行け、行け)」のかけ声。フランス人にとってはそのすべてが、バカンスの楽しい思い出や、夏休みがすぐそこに迫ったわくわく落ち着かない気持ちとつながっているのだ。

それは日本人にとって、甲子園の応援歌や金属バットの打音や試合終了のサイレンが夏を強く思い起こさせるものであることに、似ているかもしれない。

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自転車ファンでなくとも、夏の風物詩として楽しめる 

ツール・ド・フランス
ツール期間中、沿道でレースを観戦する観客の総数は1千万人に達するとされるが、そのなかには、自転車のレースを見に来たというよりは、ツールの雰囲気を味わい、楽しむために来ている観客も大勢いるようだ。だから、沿道の観客たちの様子も、ただスポーツの競技を観戦しに来た、という雰囲気とはまったく違う。

実際にレースが通過する時間より何時間も前から陣取り、ピクニックをしたり、庭でバーベキューをしたり、村の広場に設営されたパーティー会場で盛り上がりながら、まずはレースより数時間前にやってくる「キャラバン隊」のパレードを待つ。これはスポンサー企業がポップにカラフルに趣向を凝らして改造した宣伝車のパレードで、160台ほどの車両がグッズを配りながらレースのコースを行進していくものだ。お菓子や洗剤ミニパックやキャップなど他愛のない品ではあるが、観客たちはかなり真剣で、時には熾烈な争奪戦になるときもある。
このキャラバン隊と前後して、ツールの関係者の車もレースのコースを通るのだが、ここにもツール以外のレースではまず味わうことのない特別な雰囲気がある。

沿道の多くの観客たちが、ツール関係者の車(ステッカーで判別がつくのと、レースの日は公道が封鎖されるため、コースを走ってくるのはすべて関係者の車ということになる)に向かって笑顔で手を振り、歓迎してくれる。車に乗っているこちら側も、お返しに手を振り返す。手を振ったり振り返したりというこのやりとりが、何十キロ、ときには百キロ以上にわたって、毎日続いていくのだ。そこには、ツールのために同じ場所に集まった者たちの、ツールを介しての不思議な一体感がある。

それはツールが、スポーツという枠組みを超えてフランス人の心に根づいているのだ、ということを実感する瞬間でもある。
ツールをひと言で表すなら、という問いに、『移動祝祭日』という言葉がぱっと浮かんでくる。「パリは移動祝祭日だからだ」というヘミングウェイの一節で知られる言葉だ。もともとはキリスト教の言葉で、クリスマスのようには日にちが特定されず、イースター(復活祭)の日がいつになるかによって移動する祝日を意味するが、7月の3週間、通過する町や村を祝祭的な喜びに満たしながら進んでいくツール・ド・フランスのイメージを、この言葉はよく表しているように思える。
ツール・ド・フランス

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まるでフランス紀行を眺めるような楽しみも 

フランス人にとって夏の風物詩であるツールの楽しみ方には、それでは、どんなものがあるだろう。
ひとつおすすめできるのは、たとえ詳しいルールがよくわからなかったとしても、まず、レース中継のあちこちにちりばめられる美しい景色や観光スポットを楽しむところから始めてみること。

EU最大の広大な国土面積を誇るフランスの気候や風土は極めて変化に富んでいて、フランスという国をめぐっていく「ツール」の醍醐味は、レースとともに旅をしながら、その変化を感じることでもある。だからツール・ド・フランスの放映は、空撮やモトカメラが美しい風景をたっぷりと映すし、レースが行われている地方の気候や風土、歴史や特産物について、解説者もしっかり時間を割く。

フランスのラジオが2016年に調査を行ったところ、ツールを観る第一の理由は、フランスという国の自然美や文化的遺産風景を楽しむためであるという回答が50%に上った。ツールを通してフランスという国の魅力を発見し、その見どころをめぐる旅をヴァーチャルに体験できることも、ツールが「スポーツ」という枠にとどまらない、と言われる理由のひとつかもしれない。
ツール・ド・フランス
今年のツール・ド・フランスのコースについてかんたんに説明すると、7月7日にフランス西部のヴァンデ地方で開幕し、潮が満ち引きする海岸線沿いにクレープや牡蠣が美味しいブルターニュ地方まで北上してきたところである。これから中世の大聖堂で有名なシャルトル、アミアンに向かい、ベルギー国境のフランダース地方で1週目を終える。第2週目には、アルプス地方へ。峡谷の間をロワール川やドルドーニュ川が流れる中央山塊を通り、ローヌ川に沿って中世の城塞都市カルカッソンヌへ。第3週目の舞台は、スペイン国境地帯のピレネー山脈。最終日前日にはバスク地方に足をのばし、21日目、最終目的地のパリへと向かっていく。

スタート地のノワールムティエ島からゴールのシャンゼリゼ大通りまで、21日間のレースの総走行距離は3351km。レースについていえば3週目のはじまりを目前にして、21日間全体を通しての総合優勝をめぐる争いは日々ヒートアップしている。ピレネー山脈を舞台にした数日間や、華やかに幕を閉じるパリの最終ステージなど、まだまだ見どころはたっぷり。ぜひ、ツールを通して、フランスという国の魅力と美しさを発見してほしい。
ツール・ド・フランス

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これだけ知っておけばさらに楽しめる

最後に、ツールをさらにもう少し楽しむために知っておきたい基本的なルールや賞について、紹介しておくので、良かったら参考にしていただけたらと思う。

<ツールを楽しむために知っておきたい、基本ルール>

1ツール・ド・フランスでは、毎日1ステージずつ21日間レースが行われるが、21日間全体を通して競われる成績だけでなく、1日ごとにも優勝が争われ(ステージ優勝)、順位もつく(ステージ順位)。成績は、ゴールまでの所要時間と順位によって決まる。また、毎日その日までの成績を累積した暫定成績が計算され、これも表彰される。

2選手たちは8人1チームでレースに参戦するが(8人x22チームで176人の選手が出場)、成績は個人につく。(チームにつく成績もあるが、より主要な賞は個人の成績につく)。各チームにはいわゆる「エース」がいて、多くの場合チームメートは自分の成績を犠牲にして、エースのサポートに徹する。

3レースは、その日の地形や天候によってがらりと性格を変える。たとえば、起伏のない平坦なステージで優勝を争うのは、瞬発力に富んでガッチリとした「スプリンター」(短距離のスプリントからついた名前)。一方、山岳のステージで登坂を得意とするのは、ほっそりとして身軽な「クライマー」。そのどちらでもない選手もたくさんいる。丘陵地帯のように少し起伏のあるコースが得意な選手もいれば、雨や風などの悪条件に強い選手などもいる。

4途中でケガをして完走できなかったり、優勝者の時間を大幅にオーバーしてゴールしてしまうと、翌日以降出場を続けることはできない。
<ツールを楽しむために知っておきたい、各賞と各賞ジャージ>

◎ ステージ優勝(ジャージはチームのジャージのまま)

◎ 総合優勝(黄色のジャージ) 21日間全体で、走破タイムが最も小さい選手(21日間の全ルートをもっとも早く走り終えたことになる)

◎ スプリント賞(緑色のジャージ) 各ステージのゴール順位によって与えられるポイントと、ステージ途中に設置された「中間スプリントポイント」の通過順位によって与えられるポイントの合計が最も大きい選手。

◎ 山岳賞(白に赤の水玉のジャージ) 峠の頂上の通過順位に応じて与えられるポイントの合計が最も大きい選手

◎ 新人賞(白色のジャージ) 25歳以下の選手の中で、21日間全体の走破タイムが最も小さい選手

※ 最終成績が確定するまでは、その日までの暫定成績で最上位の選手が毎日表彰され、その色のジャージを着用して翌日のステージを走る。

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