2019.08.19

憧れ続けて30年。やっと食べられた「ウニの砂」

「わたしの献立日記」に出会ってから30年。いつかは食べたい……熱望の末にようやく味わえた「ウニの砂」。その出来栄えは?

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文・写真/秋山 都 

こどもの頃から食い意地がはっていた。

Adelaideclassifieds.JP食いしん坊担当の秋山都です。
わたしは1日の大半、食べることについて考えていますが、それはこどものころから。夏休みともなれば、お昼ごはんが終わったとたんに「ねえママ、今日の晩ごはんはなに?」と聞き、母の眉をひそめることの多いこどもでした。

そんな私がもうひとつ好きだったのは「本」。友人は少なく、外で遊ぶことも好きではないこどもにとっては本が大切なともだち。活字の世界にもぐりこんでいれば、私の小さなこども部屋は小公女が住む屋根裏にも、アンが暮らすグリーンゲイブルズにもなり、そこでわたしは怪人21面相になったり、エラリー・クイーンになったりして大冒険を繰り広げていました。
そこで、食いしん坊の読書好きとなれば、こんな本も好きになるわけです。母が料理好きだったので家には今で言うレシピ本もたくさんありましたが、それだけではなく食にまつわるエッセイも多く揃っていたうちでした。きっと家族で食い意地が張っていたんでしょうね。
私の本棚(の一部)。おいしいものに関する本がズラリ。
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「わたしの献立日記」(新潮文庫)
なかでもこれ、沢村貞子さんの「わたしの献立日記」はこの30年ずっと愛読してきた1冊です。ご存知ない方のために説明しておくと、これは往年の名脇役として知られた女優の沢村貞子さんが26年に渡って毎日記した日々の献立を再録し、そこに数篇のエッセイを加えた作品。

ほぼ暗記しているのに、眠れない夜や不安なときについ手にとる1冊。日々の献立から見えてくるのは「この日は沢村さん、疲れていたんだな」「今夜は豪勢だけど、何か到来モノでもあったのかしら」と、まったく会ったことのない、沢村貞子という人の飾らない素顔と、「食」への真摯な向き合い方です。

たとえば、献立日記の初日、昭和41年の4月22日はこんな風。

牛肉バタ焼き
そら豆の白ソースあえ
小松菜とかまぼこの煮びたし
若布の味噌汁

そして翌日の4月23日はこんな風。

豆ご飯
いわし丸干し
かまぼこ
春菊のおひたし
大根千切りの味噌汁

おそらく前日牛肉で少し胃に重たかったのか、ずいぶんあっさりとした献立です。そして、かまぼこはこの後25日まで食卓にのぼるので、4日間で食べきったんだなぁと。
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「うにごはんの作り方」

そうして沢村さんの食卓を見ていくなかで、とくに気になったのがこちら。昭和48年7月9日の献立です。

うにご飯
かまぼこ
とろろこぶのおすまし

この「うにご飯」とは、映画にテレビ出演が重なり、お疲れだった沢村さんが、気分転換を兼ねて台所に立ったとき、かねて知っていたレシピに挑戦したものだそう。なにしろ時間がかかるんだそうで、その作り方は……

「瓶詰の雲丹100グラムをカップ二分の一のお酒と三個の玉子の黄身でとき、二重鍋をとろ火にかけ、焦げつかないように、つきっきりでゆっくり気永に煎りあげる。ねっとりしたおだんごから、やがてサラサラした砂のようになるまでかれこれ二時間近くかかったが、塩少々と昆布をいれて炊いたご飯にまぜたうにご飯のおいしかったこと」(「わたしの献立日記」)

とあります。
ああ、食べてみたい。
でも瓶詰のウニは比較的高価だし、なにしろめんどくさそう(笑)と、長らく、30年ほど指をくわえて眺めていただけでしたが、今回、ついに思い腰をあげ、挑戦してみました。
それがこちら! 30年夢にみてきた「ウニの砂」です。
瓶詰のウニはひと瓶80グラムを丸々使いましたが、卵は我が家の冷蔵庫に2個しかなかったのでその黄身をふたつ使いました。お酒はカップ半分より少し多めに入れたかな。二重鍋も面倒くさかったので、普通の小鍋をとろ火にかけ、時々火から離しながら温度が上がりすぎないように調節。

最初はもろもろとおからのように固まってくるウニが、ねっとりとペースト状になり、さらにかき混ぜ続けているとさらさらしてくるまでおよそ40分くらいかかったでしょうか。直火にかけている分、少し拙速になったかもしれません。それでもよい気分転換になったし、なによりこれがおいしくて!

ごはんにかけても、混ぜておむすびにしても、そうめんにふりかけてもおいしくて。
一度もお会いしたことのない沢村貞子さんですが、「沢村さん、おいしいです。どうもありがとう」と手を合わせつついただきました。

なにより、鍋に向き合い、何も考えずにウニの状態だけを見る“ぽっかりとした時間”がいい気分転換になりました。「ウニの砂」、ご興味あれば作ってみませんか?



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