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2018.03.09

フェラーリと過ごした至福の一日

カリフォルニアで出会ったフェラーリ512BB。インターステート10号線に乗ってパームスプリングスへ。往復で約400kmの旅の行方は?

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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

若い頃の僕は、お金と時間さえあればカリフォルニアに行った。それほど、カリフォルニアが好きだった。

空港を出るとレンタカーをピックアップ。インターステート405号線を北に、10号線を西に、サンタモニカを目指す。

有名なサンタモニカ・ピアに近いモーテルにチェックイン。ビーチに面した最高のロケーションに建つモーテルだ。でも安い!

そして、友達に連絡して会う約束をする。一週間程度の滞在なら予定はすぐ埋まる。ランチ、ディナー、パーティ、ピクニック…いつも同じパターンだが、楽しいことばかり。

しかし、たまに、パターンから外れたお誘いもある。デザートキャンプ、フリーマーケット、アートフェスティバル、ディズニーランド等々へのお誘いだが、これも楽しいものだった。
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1980年頃だったと思う。アメリカ人の友達から日本人女性を紹介された。「旦那がクルマ好きだから、いいことあるかもよ!」といって。

彼女は40代の半ばくらいで、日本の有名企業創業家一族の出。アメリカ人と結婚してサンタモニカに住んでいた。

友達が訪問の約束をとってくれたので訪ねたが、そこは海を見おろす一等地に建つ豪邸だった。

彼女はとても気さくで、僕もすぐ緊張から解放された。僕の仕事のことを話すと「知っているわよ!」との意外な言葉が。日本の雑誌を通じて名前を知っていてくれたらしい。「主人もクルマ好きだけど、私も好きなの!」


ファサードにはメルセデスSLが駐まっていたが、「あれが私の足」。ご主人の足はメルセデスS。週末には、ランドクルーザーかフェラーリ 512BBで遊びに出るとのこと。

週末をデザートエリアで過ごすのもお好きで、砂漠の朝焼け、夕焼け、星空の話で盛り上がった。ピックアップの荷台で、スリーピングバッグに包まれて星空を見ながら寝るという話には、「ワーッ、いいなぁ!」と言いながら拍手をしてくれた。

すっかり打ち解けたころ、彼女は突然、すごい話を持ち出した。

「フェラーリお好きでしょ。だったら、一日中好きに使って! 実は、主人にはもうこの提案をしたんだけど、“いいよ、 楽しんでもらって” って言われたわ。許可済みなの」
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数日後の朝、紅い512BBと僕は東へ向かった。インターステート10号線に乗ってパームスプリングスへ。往復で約400km。6時間ほどの旅だ。

LAの市街地を過ぎると、10号線は砂漠の中を、砂漠のうねりと共に淡々と伸びる。小さな、あるいはちょっとだけ大きな町、ガソリンスタンド、ドライブイン、モーテルに時々出会う。それだけ。

でも、そんな光景が僕は大好きだし、18ホイラーズやグレイハウンド・バスも大好物だ。

ハイウェイの制限速度は60〜70マイル(96〜112k m/h )。プラス10マイル辺りまでが違反切符を切られない速度だが、僕はそれを守った。僕を信頼してフェラーリを預けてくれた人へのルールだと思ったからだ。

トリプルチョーク・ウェーバーを組み込んだ5ℓ・12気筒エンジンは、淡々と走っているだけでも退屈させられることはない。低い唸りだけでも快感神経をくすぐってくる。

低位ギアでちょっと加速するだけでも、シフトダウンでの回転合わせをちょっと大げさにするだけでも、フェラーリに乗っている興奮と満足感は味わえる。

パームスプリングスはリタイアしたお金持ちが多い町であり、観光客も多い町だ。高級車も多い。それだけに、余計、フェラーリは視線を集めた。照れくさかったが、もちろん嬉しくもあった。
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安全を考えて、ランチはバレーサービスのある高級ホテルを選んだ。若いスタッフが小走りに駆け寄ってきた。目が輝いていた。高級ホテルのバレーサービスといえども、フェラーリ512BBのステアリングを握れるチャンスなんてめったにあるものじゃない。

降りてきたのが小柄で若い東洋人だったからだろう、一瞬戸惑いの表情も感じられたが、チップをはずんだら、単純に嬉しそうな顔になった。

帰路も勝手を知った10号線を走った。ルールを守って。そんな走りが妙に心地よかった。アメリカのスケール感を改めて強く感じた。

夕方、オーナーのお宅に戻り、ファサードに停めると、すぐご夫妻が出てきた。「楽しかったかい!」とご主人。「もちろんです!!」と僕。「よかった!」と奥様。「最高の一日でした!!」と僕。

お茶をいただきながらパームスプリングスへの旅の報告を、512BBのインプレッションの報告をした。僕の心の動きもタップリ添えて。

その夜はなかなか寝付けなかった。ビーチとピアの見えるモーテルのテラスで、一日のあれこれを何度も思い返した。思い返すほど嬉しさが、幸せ感が、膨らんでいった。
●岡崎宏司/自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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