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2019.02.22

カンガルーと牛には厳重注意を!!

オーストラリアの砂漠を疾走する。クルマ好きには憧れの光景だが、そこには大きなリスクも伴っていた。筆者が遭遇した野生動物とのアクシデントには、自然と文明の避けられない宿命といえるものがあった。

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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

僕はオーストラリアの内陸部、つまり砂漠地帯を走るのが好きだった。若い頃はよく走りに行った。

たぶん、延べで3万キロくらいは走っているだろう。東のパースから西のシドニーまで、ノンストップ走ったこと(ロンドン・シドニー3万キロラリー)もあるし、メルボルンからエアーズロックまでは2度走っている。

その他にも、シドニー、メルボルンをスタートして、砂漠エリアに遊びに行ったことは何度もある。

オーストラリアの砂漠は、いわゆる「月の砂漠」でイメージするような、草木一本なく、風で砂紋が移ろってゆく類の砂漠ではない。

乾燥しきってはいても、人の居住を拒否する厳しさはあっても、生命の存在を拒否してはいない。痩せてはいるが木もあるし、小さな花も咲いている。虫もいるし、蛇もいる。

しかし、オーストラリアの砂漠の生命をなにより強く実感させられるのはカンガルー。その姿は愛らしい。よほどのことがなければ人に危害を加えることもない。

ところが、オーストラリアの砂漠を走るドライバーにとって、この愛すべき動物は危険きわまりない存在なのだ。

飛びかかってくるわけでもないし、噛みつくわけでもない。基本的には優しい動物なのだが、、危険なのは、クルマとの衝突。

カンガルーは、砂漠を走っているとき、突然クルマの前に飛び出してくる。とくにブッシュ地帯に多く生息しているようだが、ブッシュの中を通る道を走っている時に飛び出されたらほぼ避ける術はない。

僕が砂漠を走っている時にカンガルーの姿を見たのは10数度くらいはあると思う。そう珍しくはない、、そんな頻度で見ている。

道端で数頭が集まって、走りすぎるクルマを眺めている、、そんな嬉しくなってしまうような光景にも何度も出会っている。
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お腹の袋に赤ちゃんを抱いたお母さんカンガルーも見たことがある。なんとも愛らしい。

ところが、、出会いのタイミングが悪いと最悪の事態が起こる。クルマとの衝突だ。

カンガルーは大小様々だが、身長150〜160cm、体重80kg超、、といった大型のものもいる。これと衝突したら、当然クルマも大きなダメージを受ける。

そのため、砂漠地帯を走る機会がよくあるクルマは、カンガルー対策としてクルマの前面に頑丈なバーを取り付けている。通称「カンガルーバー」と呼ばれるものだ。

カンガルーと衝突したとき、クルマの被害を最小限に抑えるための装置だが、当然のことながらけっこうごつく、いかつい装置だ。

僕は2度、カンガルーにぶつかっている。1度はランクルで、1度はスバル・レオーネで。ランクルは砂漠好きのオーストラリア人と3泊4日の砂漠の旅をしたとき。レオーネはロンドン・シドニー3万キロラリーの競技中だった。

ショートトリップで使ったランクルは、同行したオーストラリアの友人の愛車だが、砂漠対策は万全。室内にはロールバーが、フロントには頑丈なカンガルーバーを装着していた。

友人は砂漠をよく知っていたが、それでも「カンガルーとの事故は避けられない」と言っていた。実際に3度ぶつかっているとのことだったし、「あわや!」といった状況には何度も遭遇していると聞いた。

そして、僕との旅でも、そんな言葉通りのことが起こってしまったのだ。

ブッシュの中を抜ける荒れた未舗装路でそれは起こった。
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友人がステアリングを握っていたが、速度はしっかり抑えていた。シドニーを早朝に出てから7〜8時間は経っていたが、すでに野ウサギを何匹か轢いていた。

低いブッシュの中を抜ける真っ直ぐの道で、カンガルーがクルマの直前に飛び出してきた。
文字通り「突然!」。避ける余裕などまったくない。

友人は咄嗟の反応でブレーキは踏んだが、ステアリングで避けようとは一切しなかった。
カンガルーはランクルのほぼ正面、カンガルーバーでしっかり受け止められ、斜め前にはじき飛ばされる形になった。

ランクルに乗っていて感じた衝撃は大きなものではなかった。相手が生身の動物であることと、頑丈なカンガルーバーのお陰だろう。

カンガルーは起き上がり、脚を引きずるようにしながらも、ブッシュの中に消えていった。
なにか、ホッとした気持になった。

「カンガルーはもちろん、ウサギだって、なんだって、生き物を轢くって気持ちが滅入るよね。オーストラリアでは仕方がないことなんだけど、、」と友人は独り言のように呟いたが、気持ちはよくわかった。

「ロンドン・シドニー3万キロラリー」の話を書いたときにも触れたが、もう一度のカンガルーとの衝突は、上記ラリー中のことだ。

カンガルーの危険は常に頭の中にあったが、ラリーでタイムを競っている中では、危険とわかっていても速度は落とせない。

その時は小関典幸さんが運転していて、僕は後席で地図をチェックしていたのだが、突然の急ブレーキと激しいショック。次いで、小関さんが挙げた「ワーッ!!」という悲鳴。

地図から目を上げると、まさにカンガルーがフロントガラスを砕いてクルマに飛び込んでくる瞬間だった。
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カンガルーは小関さんの上にのしかかるようになり、頭から血を流し、前足の爪が小関さんの肩に食い込んでいた。即死だったようだが、まだひくひくと痙攣していた。

「こいつ引き出してくれー!」との小関さんの叫び声に、助手席にいた高岡さんと僕は我に返り、必死でカンガルーを引きずり出した。
かなり大きなカンガルーだった。

オーストラリアでは牛にぶつかったこともある。赤土の道の真ん中に土とほぼ同じ色の大きな牛が寝ていたのに気づくのが遅れ、ぶつかってしまった。

幸い、この時もクルマは壊れたが重傷ではなく、旅は続けられた。でも、もう一度ぶつかったら、そこが終着点になるだろうことはわかっていた。目標通りの終着点に着けたのはラッキーだと思わなければならない。

オーストラリア、、砂漠の旅は楽しくも素晴らしいものだが、動物との衝突という大きなリスクは常につきまとう。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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